* 怯えた瞳 *
「はい、ちゃん。ちゃんと渡したから。」
「・・・物みたいに言うなよ。」
「ごめんごめん。」
「悪かったな、千石。」
「いーって。俺も一応知ってる人間だしね。」
「・・・そうだな。」
「まぁ、何かあったら連絡頂戴。俺で役に立てるなら協力するし。」
「・・・サンキュ。」
跡部くんに彼女を渡した。
大丈夫。
彼も本当はわかってる。
だから頼りにした。
でも・・・どうか彼女が今は目を覚まさないで欲しい。
目を覚ますには早すぎる。
もう少し。
もう少しだけ・・・時間が欲しい。
彼女にも、彼らにも、俺自身にも・・・・・・。
少しずつ、確実に進んでいけばいい。
「どうか・・・もう少しだけ目を覚まさないであげて。」
時間はまだあるのだから。
急ぐ必要はない。
急ぎすぎたら逆に何も変わらないかもしれないから・・・。
ゆっくり。
ゆっくり。
ゆっくり。
ゆっくり。
ゆっくりでいいんだ。
彼女は決して罪を犯したわけではないのだから・・・・・・。
千石からを渡された。
俺はどうして来た?
千石から言われたからだろうか・・・。
いや、違う。
大切なんだ本当に、腕の中の愛しい少女が。
もし、腕の中の少女が目を覚ましたらどうする?
腕の中の少女は俺を見てどう思うだろうか?
何か言葉を発するのだろうか。
わからない。
わからない。
わからない。
わからない。
わからない。
「・・・今だけは目を覚まさないでくれ。」
腕の中で眠る少女、どうか今は目覚めないで欲しい。
今の俺には・・・まだ早すぎる。
「侑士ー!跡部は?」
「・・・姫さん迎えに行った。」
姫さんという言葉に全員が反応する。
全員って言うのはオーバーやな、でも知っている人間は全員確かに反応した。
「・・・なんでだよ?!」
「千石から電話があってん、姫さんを迎えに来てくれってな。」
「・・・・・・。」
俺はひとりの人しか姫さんなんて呼ばん。
だからこそ、全員の目が俺を向いている。
もちろん、目の前にいる岳人も。
「今日は誰も部活出来そうにないなぁ・・・部室で跡部帰って来んの待ってよか。」
誰も動こうとしない。
当然や。
この状態で部活なんて出来るはずもない。
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