* 氷の城に迷い込んだ姫君 *










「待てよ。」



女の腕を掴んだ。



「待つ必要がありません。離して。」



自分の方へ引き寄せた。





パチーンッッ





「何しやがるんだ、あーん?」



俺を殴った女。



「離せと言いました。」



意志の強い瞳。



「気に入ったぜ、。」



強気な態度。



「ふざけないで、ナルシスト。」



澄んだソプラノの声。



「決めた、お前は今日から男子テニス部のマネージャーだ。」



傍に置こうと思った。



「あなたに命令される筋合いはないわ。」



何処までも意志の強い言葉。



「来いよ、監督に紹介する。」



もう一度腕を掴む。



「嫌です。」



痺れを切らした俺はコイツを抱き上げた。



「・・・っ!」


「少しおとなしくしてろ。」


「離しなさい!」


「嫌だね。」


「離しなさい、跡部景吾!」


「・・・知ってたのか、俺の名前。」


「・・・悪かったですね。」


「いや、別に構わない。」



意外だった、名前を知られていることに。

つい昨日転入してきたヤツに・・・。



「クラスの女の子たちが教えてくれました、あなたの名前。」


「・・・。」


「私に関わらないで、跡部景吾。」


「名前で呼べよ。」


「・・・。」


「特別に許可を出してやったんだ、呼べ。」


「言ったでしょう、あなたに命令される謂れがないわ。」


「・・・。」



ここまで意志の強い女は初めてだ。

媚びている様子が微塵もない。

無理やりにでも連れて行こうと思った。傍に置きたいと。



「降ろして。」


「断る。」


「・・・。」


「お前に命令される筋合いはない。」


「・・・。」


「気の強い女は好きだぜ。」


「私、ナルシストは嫌いです。」


「・・・。」


「降ろして。」


「・・・。」


「降ろしてよ・・・。」



降ろした。

抱き上げた女を。



「でも、逃がさないぜ。」


「・・・っ!!」



驚いた表情。

狙った獲物を、簡単に逃がすはずがない。



「お前は俺から逃げられない。」


「・・・。」


「絶対に、逃がさない。」


「・・・・・・そんなことを言っていられるのも今のうちです。」


「なんだと?」


「あなたが私のことをどう思っているのかはわかりません。

でも、あなたはきっと私を嫌いになる、もう2度と近づこうとも思わないでしょう。」



澄んだソプラノの声が廊下に響く。




 







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