* 護るべき存在 *
部室のソファーで眠っている先輩を見つけた。
「サボっていると跡部部長に怒られますよ?」
実際、先輩はよく働いている。
俺のような準レギュラーにもドリンクやタオルを用意してくれる。
「・・・・・・やだ・・・。」
「先輩?」
起きた様子はない。
閉じられている瞳からは涙が零れている。
「やだよぉ・・・っ」
不意に先輩の手を掴んでしまった。
自分が手を握ることで何も変わらないかもしれない。
それでも・・・
「先輩、俺が傍にいますから・・・。」
だから泣かないで下さい。
あなたには笑っていて欲しいです。
「・・・んっ」
「起きましたか?」
「わ、若?!」
「大丈夫ですか?」
「・・・私何か言ってた?」
「いえ・・・」
何と言えばいいのかわからない。
「手、握っててくれたんだね。」
「はい、すみません。」
「ううん、ありがとう。嬉しかった・・・。」
にっこりと笑う先輩。
この笑顔二度と曇らせたくはない。
「そういえば練習は?」
「・・・・・・。」
「ずっと握っててくれたってことは・・・ど、どうしよう?」
「先輩が気にすることはないですよ、俺が勝手にしたことですから。」
「ううん、私のせいだよ。嬉しかったし・・・若の手が暖かくて。」
「・・・・・・。」
「よし、景吾に謝りに行こ?」
「はい。」
「大丈夫、景吾は優しいから。」
跡部部長が優しいのは先輩限定だと思う。
本当にあの人は・・・先輩を大切にしている。
「行こ?」
「・・・はい。」
先輩に手を握られたまま歩く。
目的地は跡部部長のところ。
「あのね、若がねこうやってずっと手を握ってくれてたの。」
「・・・。」
「ドリンクにカード置いておいたでしょ?『少し眠ります』って。」
「ああ。」
「眠ってたんだけど・・・ちょっと昔の夢見ちゃって・・・泣いちゃってたみたいで・・・。
それで若が心配してね、手を握っててくれたんだと思う。だからね、若は悪くないよ。」
「そうなのか、日吉?」
確かにそうだ。
先輩は泣いていた。
どうすればいいかわからなかった俺は手を握った。
「・・・。」
「もういい、わかった。」
「景吾!」
「後半はちゃんと真面目に練習に出ろよ。」
「うん。」
「はい。」
「よかったね、若。」
「ありがとうございました、先輩。」
「いえいえ、私もすごくありがとう。」
跡部部長に負けないくらいこの人を想っている自分に気づいた。
先輩の笑顔を守りたい。
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