* 優しい手 *










『あなたはどうして優しいの?』



俺は優しくはないと思う。

少なくとも、自分ではそう思う。



『私はあなたにとって利益になるような人間じゃない。

それなのにどうしてどうして優しくしてくれるの・・・?私に優しくしてもいいことなんてない。』



流れる涙が止まらない。

それでも彼女の瞳は俺を映している。



さん、俺は君が心配だから。だから俺の家に行こう?』



彼女に何があったかはわからない。

多少は予想もできる、でも本当のことはわからない。

無理やり話させるつもりもない、彼女が話してくれるのなら訊こうと思う。



『行こう?』



手を差し出してみる。

すると彼女は俺の手に手を重ねた。



『・・・ありがとう。』



彼女との手は繋がれたまま。

ゆっくりと歩調をあわせる。





















『・・・ココアは嫌いかな?』


『・・・ううん。』


『甘いものは疲れを癒すからね。』


『・・・ありがとう。』





















『・・・幸村くんは何も聞かないんだね。』


『俺は無理やり何かを訊くつもりはないよ。』


『でも、気になるでしょ?私のこの傷とか・・・。』


『それでも、君が話したくないのなら訊かないよ。』



無理やり訊くことによって彼女を傷つけることになるかもしれない。

それだけは避けたい。



『・・・少しだけ、お話訊いてくれる?』


『話してくれるの?』


『うん、何も話さないままこうしているわけにはいかないから・・・。』


『話したくないならいいんだよ。もちろん話してくれなくても今日は泊まって行ってくれていい。』


『・・・幸村くんが、嫌じゃなかったら訊いて欲しい。』


『それなら訊くよ、無理はしないでね。』


『・・・ありがとう。』




















『私ね、母親に虐待を受けてるの。』


『・・・。』


『父親はもうだいぶ前に死んじゃったみたい、今は母親とふたりで住んでるの。』


『・・・。』


『今日も殴られてね、帰ってくるなって。だから家を出たの。』


『・・・。』


『今日はいつもにも増して機嫌が悪かったみたいでね、包丁を振り回してた。』


『・・・。』


『本当にごめんね。』


『俺こそごめん、無理に話させてしまった。』


『ううん、幸村くんは悪くないよ。』


『・・・。』


『初めて、話したの・・・何か少し楽になった。私、帰るね。』


『今日は泊まって行ってもいいんだよ?』


『ううん、帰る。ありがとう・・・話訊いてくれて。』


『送るよ。』


『いいよ、もう遅いし・・・。』


『送らせて、ね?』


『・・・本当に優しいね、じゃあ・・・お願いします。』




 







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