* 優しい手 *
『ただいま・・・。』
誰もいない。
母親が眠っているはずがない。
『お母さん?』
返事がない。
『おかあ・・・さん・・・?』
リビングに横たわっている母親は血を流していた。
『・・・っっ!!』
『さん?』
『ゆ・・・きむらくん・・・っ』
私の様子に気づいて幸村くんが入ってきた。
『・・・!』
『ど、どうしよう・・・?』
『とりあえず、救急車、それと警察もかな。俺が電話するからさんは少し休んでいて。』
幸村くんは落ち着いていた。
私は混乱して何も出来なかった。
しばらくして救急車と警察が来た。
母親はもう、息を絶えていた。
『ご家族の方は?』
『・・・は、はい・・・私です・・・。』
『お父様は?』
『・・・いません。』
『・・・。』
母親は自殺だった。
そして、私はひとりになった。
『幸村くん、ありがとう・・・今日はもう帰って?』
『でも・・・。』
『大丈夫、これは私の問題、幸村くんを巻き込めない。
電話してくれてありがとう、私ひとりじゃ何も出来なかった・・・本当にありがとう。』
『・・・。』
『あのね、私、人に触れられるのすごく嫌だった。でも、幸村くんの手はとても暖かかった。
嬉しかった、ありがとう・・・ごめんなさい。・・・本当にありがとう・・・ありがとう・・・。ごめんなさい・・・。』
母親から父親は死んだと訊かされていた。
でもそれは違った。
母の葬儀の時、父親がいた。
写真でしか見たことがない、父親が・・・。
『。』
『・・・おとう・・・さん?』
『そうだよ、君の父親だ。』
『ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・っ』
『のせいじゃないよ。』
『違う、お母さんが死んだのは私のせいなの、私のせいで・・・!!』
『のせいじゃないよ。』
『私のせいなの・・・っ』
父親との始めての会話。
父親の手も暖かかった。
『これからは一緒に暮らそう。』
『いいの?』
『と僕、ふたりで過ごしていこう。』
『・・・はい。』
それから父親との生活が始まった。
父親は本当に優しかった。
まるで、幸村くんのように・・・
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